「ユリシーズ」、方法としての白紙の本

ユリシーズ」、方法としての白紙の本

大杉栄1920年にこう語りました。「人生は決して定められた、すなわちちゃんと出来上がった一冊の本ではない」と。各人がそこへ一文字一文字書いてゆく、白紙の本だとしたら、ジェイムス・ジョイスは人生を模倣した本を書いたのです。「ユリシーズ」(1922) の高さは越えられないのは、ジョイスの学びながら書いたその注釈学的な書き方に理由があります。どんなに神話と歴史と文体が詰まっていても、「ユリシーズ」は、現在進行中の、方法としての白紙の本という性格をもっています。これは、植民地主義がもたらす恐ろしい不毛な空洞を克服する方法であった、と、アイリッシュの批評家たちは見抜いています。たしかに、ジョイスの「自分で決めた亡命」とは、ほかならない、白紙の本にワイワイガヤガヤと人生の問題を書くために、アイルランド的にアイルランドのものを連れてウロウロウヨウヨと脱出した亡命でした。