演劇感想文 ー エリフリーデ・イェリネク作『エピローグ?』 のリーディング

演劇感想文
ー エリフリーデ・イェリネク作『エピローグ?』 のリーディング

「だいじょうぶ、静かに待て」。しかし3・11の原発事故のときに、ほんとうにその通りに、われわれは沈黙すべきだったのであろうか?ハンナ・アーレントはいう。「暴力が絶対的に支配するところでは、法律だけでなく、すべての物、すべての人間が沈黙せざるをえない」と。それとは正反対の方向から、エリフリーデ・イェリネク作『エピローグ?』(林立騎訳) の作品は、沈黙からの自己差異化を表現している。東京演劇アンサンブルの俳優たち五人がこの問題作の朗読に取り組んだ (原口久美子、奈須弘子、久我あゆみ、天利早智、水流梨津美)。Intermittence、明確なリズム、次第にだれが語っているのかという境界が曖昧になる流れゆく声と声の連結。盲目の言葉のなかで、暗闇のなかで、局所的に照らし出された、洪成潭さんの描いた国家暴力に苦しめられる人間たちの顔の映像が沈黙している。朗読は、身をずらしながらも、しかし逃れられないパラドックスにしたがって、すでに言われていたことを初めて言わなければならない (火・土・風・水、見えないものと見えるもの、空間と時間、存在と非在、意味と非意味)。そして決して言われなかったことを飽きることなく繰り返さねばならない (放射能汚染メルトダウン、移住、難民、原発企業、国家、埋葬できない遺体、生きるに値する生と生きるに値しない生)。おおよそ一時間の朗読であったが、朗読者と観客を隔てる金網をみながら、デュラス監督「インデイアン・ソング」導入部の三人の少女の朗読ーベトナム古代ギリシャ劇の語り部ーを思い出すことがあった。作家は終わりのみえない災害を、「アンティゴネ」をモチーフにして描いたという。ドラマトゥルク・井上百子、演出・小森明子、演出助手・桑原睦