フェルメールの手紙を書く女たち

VERMEER

モデルに着せる衣装とか小道具の絵画を買い込んでさぞ大変だったと心配するが、町医者のフェルメールにとって散財だったのは、当時大変高価でレンタル代も高い楽器だっただろう。オランダ中流は絵画マーケットというものを成立させた。それまでは絵は市場では買われなかったのである。建築ラッシュと投機のバブルの時代に新築の家の中を飾るインテリアに絵を買う必要があった。(ちょっと昔までは、新築した家の応接間を演出するために全集を買ったのと同じである。) 壁の絵は当時の流行を伝える。オランダは世界航海に乗り出していた時代だ。海のイメージは外部世界の比類なき大きさをあらわしている。それとは対称的に、女性達は外を遮断したなんという親密な内部空間にいるのだろう。絵の中の婦人は、遠隔地のアジアへ旅立った愛人の船乗りを思っているが、自らの欲求の渇きを音楽で慰めることができたのだろうか?あるいは、愛と性愛の欲求の延期に戯れているようにもみえる。容易に縮まらぬ距離こそが再び欲求を作り出すことになるから。文盲率が劇的に低下した近代から現れた中流はステータス又は自己規律として書くことを始めた。当時の画家達がラブレターを書く女性達を描いたのは、(手紙を書くことで求婚者との出会いを遅らせたカフカのように)、遅れ、時間の差異が文字を読む人の欲求を最大化することを知っていたからではなかったか?この絵には愛人へ宛てたラブレターで一杯のごみ箱が描かれてはいないが、かわりに、モラルを象徴するモップとそれで掃除する召使の姿が描かれている。教会が力をもった中世の絵画だと上方に説教の言葉が示されていた。この時代はオランダ人の清潔好きのステレオタイプを利用して、格言を絵画的に表現することになった。イメージが言葉から自立したこの時代の作品たちに影響を受けることになるのは、もっと後の、光それ自身を描いた印象派画家たちであった。しかしそのためには画家を家の外に連れ出してくれる油塗料チューブが発明される必要があった・・・