大島渚「儀式」(1971)を読む

大島渚「儀式」(1971)を読む

第一次大戦は、民衆が国家と国家(フランスとドイツ)との争いに巻き込まれる、総力戦の様相を呈した。民衆の開放感と国家への不信感が戦後、支配的となった。日本の場合、関東大震(1924)がそうした戦争と同等の意義を持つといわれる。右翼のアイデンティティーは関東大震災の後に起きてくる。▼ニ十世紀の思想史の上で決定的な事件は、三十年代のスターリンヒトラーの協調であった。その結果、左翼から右翼まで知識人が連帯した仏の人民戦線が崩壊の危機に直面。例えばソビエトを「故郷」として発明した、林達夫の抵抗にも甚大な影響を与えた。西田の普遍的国家観は屈服。田辺元ファシズムの時代が続く。▼日本人の知識人は、世界の知識人と比べてみると「珍しい」。東欧の知識人は国家を絶対化することは起きない。国家は自ら選ぶものである。林の新しい西欧「ソビエト」は、日本回帰(国家の絶対化)への抵抗をなした、故郷ならざる故郷であった。▼七十年代の大島渚「儀式」は海外から高い評価を受けた。この作品は、日本人の「土」に対する愛国的な執着を描いているとみることもできよう。主人公マサオは日本社会の息苦しさから逃れようとき、地面に耳をあてる。敗戦時の混乱の中で中国の地で生き埋めにされた弟の声をききとろうとするのだ。息苦しさとは、戦前回帰の反動的な、愛国的復興の隠喩である。