国民投票の意味を読む (2)

ユリシーズ」を読むと、学校や図書館や病院などの公共施設が舞台の背景として選ばれていますが、その理由はなにか?イギリスの植民地下でも最低これだけの充実した公共施設が存在したということを自分の本の中で示したジェイムス・ジョイスは、独立後はこれを下回ってはならないのだから独立派エスタブリッシュメントに騙されるなよ、と、警告したかったという説があります。大英帝国はレッセフェールと計画の奇妙な共存でした。さて現在の話、EUから独立した後、保守党はEU時代の公共福祉のレベルを維持できるでしょうか?現在保守党がノスタルジーを感じる<大英帝国>って、サッチャーが発明した《幻想》大英帝国のこと、即ち、国家もセール中というほどの市場競争主義。保守党はレッセフェールしかありません。福祉を国家に任せると、教会と人々のボランティアの精神が廃れてしまうと心配しているだけです。だから今回ワーキング・クラスが保守党の主張に沿って投票したのは、これに関しては労働党が極右翼の影響力を過小評価してきたことの問題もありますが、大いなる幻想ではないかと思っています。確かに、(19世紀マルクスがアイルランドからの安価な労働力を止めなければイギリス労働者階級は政治的に自らの足で立つことができないだろうと言った意味で)、EU内の外部からの労働力をコントロールしなければ自分達の政治力が保てなくなる危険性があると考えたかもしれませんが、しかし極右翼に煽られるようなことでは、資本主義に対抗するワーキング・クラスが消滅したとは言いませんが、自分達が何をしているのかわからなくなったという意味の群衆化の始まりを意味するのかもしれません。
2014年四月の「ザ・ガーディアン紙」のコメンティターSimon Jenkinsによると、長い目でみるとUKipの脅威は一時的なもので将来において存続することもない現象としたうえで、寧ろ問題はベルギーのEU本部の官僚たちの専制支配にあると書いていました。The problem isn't racism - it's the oligarcs of Brussels. ここから(つまりEU批判から)、キャメロンはアイデンティティーに関する自己同一性の言説を作り出してしまったことの問題を分析しています。Now the politics of citizen identity lurks everywhere. この二年後の現在、国民投票が分断をつくるという、<われわれ>と<かれら>との間の排他的な境界線をつくっている事態です。皮肉にも、相互依存の時代に背を向けた、アイデンティティーに関する自己同一性の言説から生じる分断は、外部との関係だけでなく、いかにも時代遅れな国家の独立のイメージに規定されたようなかたちで、
英国の内部の関係において起きてきました。

 
本多 敬さんの写真

 

 

 

 

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