安丸良夫「神々の明治維新」(岩波新書)

天皇の問題も靖国問題も制度論として分析すべきである。天皇靖国は制度または理念として考えれば、これらを廃止できるのだ。たとえ廃止できなくとも、天皇靖国を言語化して相対化していくことが可能だと思われる。ところが、1979年に出た本で、現在も読まれているらしいこの安丸氏が「神々の明治維新」と過剰にやるように、天皇を当時存在していたであろう民衆のユートピア的心情からアプローチして考えるのは、靖国問題を民衆の心情からとらえていく場合と同じような危険をもたらすことになるのではないか。それは、天皇靖国を批判しながら、その作業によって、新しく天皇靖国を「日本人の精神に内面化される」ものとして新しい神話を作り上げてしまうという危険のことである。近代国家の産物でしかないもの(天皇靖国)を、「日本人の精神」に根をもつと言うならば、またはそういう風に考えさせられてしまったら、そういうものを決して廃止できなくなるだろう。