仁斎論語

‪「子曰く、質、文に勝てば則ち野なり。文、質に勝てば則ち史なり。文質彬彬(ひんぴん)として、然る後に君子なり」(『論語』)。

吉川のように、文明(「文」)と素朴(「質」)の構造的対概念を以て、理想化された人間を表象するようではオリエンタリズムに陥るとおもわれる。そこで、子安「思想史家が読む論語」は、質を「人間の具える天賦の自然性」として捉えた上で、人間にとって大事なもう一つの要素があるのではないかと問う。「それが文である」という。ここで、人と、人が学ぶ先人が遺す文章との関係が問われていると説明されるのである。私の理解が間違っていなければ、仁斎にとって最大の関心は「人」である。人が人として成り立つのは、天賦の自然性と原初的エクリチュールに立ちもどっていくことによってである。答えることのできぬ問いを開くために、「行いて余力あらば、則ち以て文を学ぶ」、「博く文を学ぶ」という。