「ユリシーズ」

現代文学ユリシーズ」は、共同体の土地を奪われた叙事詩的怨みとそれに対してとる距離を無意識としてもっている。だから主人公は最も差別されたユダヤアイルランド人ー今日ならばアラブ人ーでなければならなかった。同じ意味で、消滅しつつある氷河も排除されている。それならば氷河を小説の主人公にすべきではないかと私は思っている。私自身は氷河を見たことがない。氷河の痕跡ならば見た。ヴィットゲンシュタインが滞在したアイルランドの端っこ(西部)を訪ねたとき、この眼で見た、筆跡のような、死に切った氷河の痕跡のことを書いた。氷河というもの。今日までこの他者にだれも関心をもってくれないのだけれどね