『フィネガンズ・ウェイク』

Shem was a sham  シェムはシャム(いかさま)


フィネガンズ・ウェイク』は、意外なことに、始まりがある。前作の『ユリシーズ』挿話「イタケ」と、冒頭における始原へ帰る始まり(river run, past Eve and Adam,s...川は流れる、「イヴとアダム教会」を過ぎ...)、そして物書きシェム ( Shem was a sham  シェムはシャム、いかさま)である。挿話「彷徨う岩々」の道において線の増殖は表されていたが、ナレーターから繰り出される操り人形の糸が増殖していく様子は、(わかっているだけで!)五十数か国の言葉で書いたという世界中の河の名に見てとることができよう。作者ジョイスは物書きシェムにすんでいて、ここから原初的に増殖するエクリチュールの糸は、巻かれたら巻きかえせとばかり、「ALP」の暗闇を介して、迷宮と非難されても仕方ないやり方で、解読すべき始原にある『ケルトの書』を読めなくしてしまうほど差異化していく。夜明けのときかごめのマーク王こと、ジョイスにとって問題となってくるのは、高過ぎる天の父の同一化をもとめてくる存在である...