柄谷行人『世界史の実験』の感想文

柄谷行人『世界史の実験』(岩波新書)は彼の交換様式論を使って、言説<平田篤胤柳田国男>の線から言説<狼人間ーノマド山人>に線を引く。面白く読みはじめたが、読み終わってみると、われわれが逃げ出したい<一国民族学>の顔の多様性を殺戮する教説<村人>ブラックホールの近代に包摂されてしまっていないだろうか?『世界史の実験』に反グローバル資本主義の新しい言説の成立をみとめることはできるが、もしそこに国家神道安全神話化をまったく問題にすることがなければ、帝国の構造に収斂した言説<世界史>の後の思考実験も明治維新の近代への民衆的ユートピア的内面化なのかと思わざるを得ない。