‪ゴダールの映画「 ヌーヴェルバーグ」(1990 Nouvelle Vague)

f:id:owlcato:20190410153245j:plain思っているが、この映画について最初に言っておかなければいけないことは、アラン・ドロンがゾンビみたいに描かれているということ。

物語を説明すると、ウィキのストーリーではこう簡潔にまとめてあった。

‪「彼女」ことエレナ・トルラート=ファヴリーニ(ドミツィアーナ・ジョルダーノ)は、大財閥の当主である。ある日エレナは、交通事故に遭った男、「彼」ことロジェ・レノックス(アラン・ドロン)を救う。放浪者であったロジェはエレナの屋敷に住み着き、行動をともにし始めた。エレナとロジェが、湖にボートを漕ぎ出したとき、ロジェはボートから落ちてしまう。エレナは、ロジェに手を差し伸べなかった。ロジェは湖中に消えた。‬

‪ちょうど1年後の春、エレナの前にロジェとそっくり似た男・リシャール(ドロン、二役)が現れる。リシャールは、ロジェとまったく違うのは活動的な人間だということで、エレナはリシャールに惹かれた。リシャールはエレナの経営する会社の実権を握る。‬エレナとリシャールは、ロジェと行った同じ湖に、同じようにボートを漕ぎ出した。そこでリシャールはエレナを突き飛ばす。エレナは溺れかけるが、リシャールは腕を伸ばしてエレナの手をつかみ、エレナを救い出すのだった。‬ ‪

なるほどエレナの精神的成熟のことがいわれている。ロジェ・レノックスはエレナの心の中の他者である。言葉で説明されるとこう整理されてしまうのだけれど、映像で見たことにこだわってみると、おぞましいアラン・ドロンは何らかの力で死体のまま蘇った怪物である。 それは人間の心の中の他者ではない。ロジェ・レノックスを殺したあと、エレナの精神がリシャールという名をもったこの死者から成り立っているではないか。だがゴダールはこのような亡霊の精神を物語る説話を「ヌーヴェルバーグ」と名づけてみようとしたのか、わからなくなった。わたしはこういうことも考える。エレナは過去のロジェ・レノックスの言葉を理解しようとして、彼の心の中の感覚世界を追っていったようにおもう。だけれどロジェ・レノックスは理解されることはないだろう。そうしてエレナは彼女の前に現れたリシャールの心を住処にしようとして屋敷を出るのである。しかし他者ロジェ・レノックスはリシャールの現在から構成されることは不可能である。もっともはかない瞬間だけが華々しき過去を所持するからだ。華々しき過去は美のことである。ほかならい美と愛の不可能性、それが「ヌーヴェルバーグ」と名づけられたのではなかったか?