ゴダールの『映画史』(Histoire(s) du cinéma)

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ゴダールの映画『イメージ・ブック』の前半は、ゴダールの『映画史』(Histoire(s) du cinéma)を発展させたもので成り立っているから、『映画史』をしっかり見て欲しいと願うものである。『映画史』は、1988年 - 1998年の間に断続的に製作および発表され1998年に完成した、ビデオ映画シリーズである。『映画史』とはラングロワとトリフォーへのオマージュであると言っていい。『映画史』はいかに目に見えないものを目に見えるものと関係づけるかという言説的構成をもっている。ラングロワとトリフォーの魂の気とは、それが散じ尽くす前に時間があるから、コミュニケーションをとることができると考えてみるのである。それによってどういうことが言えるか?『映画史』を形作っているのは、天地の間、すなわち目に見えないラングロワとトリフォーとゴダールの間に往来している感化の大きな運動である。『イメージ・ブック』では、目に見えない、ヨーロッパにとっての他者とのコミュニケーションのあり方が問われることになった。『イメージ・ブック』は、『映画史』のポール・ヴァレリーに言葉をひいた言葉を呼び出す。「かすかな声、おだやかな、か細い声で、大それた、重大な、驚くべきことが、深く、そして正しいことが語られる」と。この言葉に加えられる映像はただ一つである。映像はイスラムの女性とおもわれる人間の身振りとジェスチャーである。『イメージ・ブック』と『映画史』のナレーションは反時代的精神が吃る形而上学的ロゴスである。はじめにロゴスありき。垂直的に、ロゴスは感化の運動の上に泊まっている。ロゴスは言語的存在が自身が存在する宇宙論的な意味を問う。ロゴスは時間に先行する論理である。時間のイメージに先行する思考のイメージである。天との関係において世界に存在する諸々のものは水平的全体性(平等性)である。 ‪