2022年『ユリシーズ』出版100年を前に

2022年『ユリシーズ』出版100年を前に、ジョイスとノラの遺骨をスイスからアイルランドに送還するという話があるそうです。ジョイスは自分で決めた亡命でもうそれっきりアイルランドに帰ってこなかったのです。『ユリシーズ』波乱万丈の人生の最後は、アイルランドに埋めてくれとおもったかもしれないですね。『ダブリナーズ』->『若い芸術家の肖像』->『ユリシーズ』->『フィネガンズウエイク』という順番で、いわゆる「アバンギャルド」化していくことになりました。モダニズムにおける実験精神の方向を行く『ユリシーズ』はリアリズム的言説にも神話的言説にも絡みとられない文学の再構成です。『フィネガンズウエイク』はなにかバベルの災厄からはじまった諸言語(ラング)にたいする壮大な普遍言語の再建を試みている感じです。この本はいかなる言説からも巨人の身体のもとに言葉を取り返しています。ところがこれとは逆の方向で、最後に書かれた『フィネガンズウエイク』を読んではじめて『ダブリナーズ』 が分かったと語る人がいました。言葉の故郷に帰ってきたというようなことなのかもしれません。ダブリンは『雨月物語』みたいな場所でしたから、亡霊Spiritとしての精神の帰還かもしれませんが(むしろヘーゲル的な意味でこれがこそが世界をつくったというか)。わたしのヴィットゲンシュタインも言葉の故郷に帰りました。