言葉と物のコンパクトな世界 No. 22

  1. 言葉と物のコンパクトな世界 No. 22

  2. 渡辺一民氏は、安倍晋三全体主義があっという間に広まったあの時代のことを全く知らないのだと怒っていた。このとき渡辺氏は、青年時代を思いかえして、フランス文学をやっているのは生意気だという理由で右翼軍人からボカボカ殴られたときは顔が変形するかと思うほどだったと語った。反対に、戦後は、大衆団交でおまえは喋っていることと行っていることが違う、ラジカリズムでないと左翼学生から突き上げられたという。フーコー「言葉と物」の翻訳で三島と大江から褒められちゃったとほんとうに嬉しそうだったが、あれはなーんか、右と左の両方に勝ったというような笑顔だった...。ヨーロッパ中心主義批判だからヨーロッパ大好きの代表選手(和辻)とアジア大好きの代表選手(竹内)の両方を考えようとしていた。必ずしも日本思想を受け入れていなかったが、靖国問題を批判的に考えるためには必要不可欠だし、屈折した敬意みたいなものを口にしていた。劇団の納会のとき、あのときは当局から渡辺一夫の研究室が閉鎖されるかもしれなかったが、(後から聞いた話だろうか)、現場に行った活動家の学生たちの言葉で言い尽くせぬ大変な苦労があったらしいということを三回も言ったあの表情を忘れられないのである。