小説マルクスー未来を思い出す部屋

 

マルクスを書く

ネット小説マルクスはロンドンに4年間滞在した時の問題意識を垣間見ることができる。英国は米国大統領(ブッシュ)を王のように考えていたブレア政権にリベラルのマスコミは反発した。マルクスは1950年代から普遍主義から離れて、普遍主義のイエニーと隙間ができていたであろう。異性愛と同性愛とが混在したマルクス一家はスキャンダルで、労働者階級から孤立していたし、亡命生活の苦労もある。マルクスヴィクトリア朝の作家のように妻に清書させていた。いかにも中流的というか..。マルクスの悪筆を読めるのはイエニーだけだった。エンゲルスは清書されていなければマルクスの原稿を読めなかった。エンゲルスも、民族主義の革命の見方に疑問に思っただろう。

"貨幣は一般的な等価形態だから貨幣とされるのではない。逆である。貨幣は貨幣である、この事の故に、貨幣は等価形態となるのである。王は皆の承認によって王の地位につくのではない。逆である"ちょうどこの文の下に君が残した落書きがある。・・・

..僕はね、ここに"王は王である、それゆえに、王は皆の代表となるのだ"と書いたはずなんだがね。ところが、一体なんのつもりでこんなことを勝手に書き込んだんだい。"I am not afraid of my subjects! TOOFEEF!・・・

...BIZDA, BIZDA, BIZDA"いったいこれはどういう意味なんだい。何が言いたいんだ。誰が君の臣下なんだい。この前頼んだ手紙の清書でも同じような不可解なことが起きていたようじゃないか」。と、マルクスは怒って原稿を机の上に叩きつける。

ジェニーは原稿を取り上げると、続きを読み始める。
マルクスを遮って言った。「ジェニーはジェニーである。つまり自己自身が自己を権威づけるとすれば、臣下であるカールやフレデリックの承認がなくともこの私は皆の王だ」。
 
「やめろ!やめたまえ!!・・

 

No.8ネット小説マルクス

「夢か!真っ暗でどうなるかと思ったよ。ジェニーも一緒だった」、と、額に手をかざしたエンゲルスは興奮気味に喋る。マルクスはひとりごとのように呟き、苦笑する。「ジェニー?僕の夢にもジェニーが出てきたんだ。ねえ、君の夢には僕は現れなかったのかい。なんども"怪物!"って叫んでいたぜ

 

 

 

ネット小説マルクス10

「洞穴の奥に入っていくと前方に光が見え、光の束の中に人のシルエットが浮かび上っていた。その人物の白い手と繊細な指に気持ちを奪われているうちに、いつの間にかジェニーと共に鬱蒼とした林の中にいたんだ」。「僕たちの散歩道のハムステッドの林じゃないのかい?」

No. 25小説マルクス

..ぐちゃぐちゃに溶けだしそうなの。こんなことを口にするなんて、ああ、わたしはとってもいけない女なんだわ、わたしったら。是非、あなたにかなえて頂きたいお願いがあります・・・」。マルクスは低い声で呟く。「その先はもうよく覚えていない」

 

No. 28小説マルクス
・・わたしが本当に怒ったらどんなことするか、覚悟しなさい!」。マルクスは不愉快になった。「やめてくれ。実にくだらない。ダブリンからやって来たソーホーの娼婦ども、小便みたいな化粧をぷーんと臭わせて道を歩いている君の女友達どもと、ジェニーを一緒にするな!」。

 

No. 74小説MARX

マルクスは頭を抱えた。「モーゼだって。君までこの僕を愚弄するつもりか。絶望的だ。とんだ茶番じゃないか。ハムステッドの鳥たちよ、戻ってこい。もう独りぽっちだ。砂漠に置き去りにされたかのような沈黙。真っ暗で息苦しい。誰でもいいから、この僕を外に連れ出しておくれ!」。

No. 85ネット小説マルクス

..裁判所の執行官が玄関に来ていることを告げようと部屋に入ってきたジェニーであったが、マルクスエンゲルスが戯れる姿に一瞬立ちつくす。部屋の中の様子を眺めながら自失茫然と立ち尽くす。

No. 90ネット小説マルクス

..動かないジェニーの姿を認める。実は、仮面の二人は、マルクスエンゲルスである。マルクスがジェニーの顔を覗き込む。
「うっ、ひどい臭いだ。それに裸足じゃないか。(ジェニーの肩を揺さぶりながら)おい、しっかりしろ。どこから来たんだ」。

No. 93ネット小説マルクス

..とくしゃくしゃになった紙切れをみつけ、そこ「BIZD・・・MYMOUSE EATING」という綴りを確認する。それからイチゴと「赤い十月のクッキー」も。「BIZD・・MYMOUSE EATING。毒虫」と、エンゲルスは嘲笑った。「何者?」とマルクスは言った。

 

No. 94小説マルクス

エンゲルスは叫び、追い払うように、ジェニーの顔に向かって思いっきり唾を吐きかける。「この毒虫め!」。と、ベッドルームの中。ジェニーは薄目を開け、マルクスエンゲルスの姿を認める。タバコの灰がフレデリックの赤いガウンと床に散乱していた。・・・

No. 100小説マルクス

マルクスは娘のエレナの口調がだんだん母親のそれに似てきたと思い始めていた。それから、女というのは所詮幻想に過ぎない、という悔悟の言葉が頭のなかを駈けぬけた。不幸と災いを招く幻想と知りながら、男はどうしてこれを欲望してしまうのだろうか。幻想が幻想を身ごもる

No. 163小説マルクス

「あなたが関心を持っている貨幣には、ぎらぎらと輝く濡れた眼差しがあるのかしら」。「眼差しだって。それはどうだろう」と。マルクスは答えた。ジェニーは怪訝そうに返事をするマルクスの手を取ると、ゆっくりと自分の唇に触れさせる。

No. 167ネット小説マルクス

乱暴に書き殴られた文字のなかに、女の身体と言うよりも、道化の顔、それからペニスや睾丸の形をした幽霊や亡霊の顔がいくつも描かれている「ドイツ・イデオロギー」の原稿が浮かび上がる。

マルクスは落ち着きを払って説明した。・・・

No. 176小説マルクス

...これじゃ、世紀の論文も、とんだ贋金造りってもんだよ」。マルクスは顔を背けたジェニーの腕を両手でつかみ、身体を激しく揺さぶった後、荒っぽい手つきで再び原稿を取りあげ、威圧した調子で読み始める。

 

 

No. 186小説マルクス

エンゲルスはジェニーの方へ歩み寄ってなにか一言二言、耳元でささやくと、数枚の紙幣を渡す。ジェニーはエンゲルに言った。「あなたの友情には心から感謝します」。ジェニーはエンゲルスに接吻をした後、ベッドに近づき、横たわっているマルクスの身体の上に紙幣をばら播く。

 

No. 192ネット小説マルクス

「まさか。君の夫が僕の幻想の中で生きているだなんて。むしろ、僕の方がマルクスの幻想の中に生きているんだよ。カール・マルクスという偉大な解放のユートピアの幻想の中でね。勿論幻想などではなく、理想というべきだけど。君は、多分、僕たちの友情を嫉妬しているんだね。・・・

No. 193ネット小説マルクス

僕が君たち夫婦に嫉妬していると同じくらいね。しかし、僕たちはひとつの塊なんだ。仲間なんだ。ブルジョア的な個人主義に囚われて、ばらばらになってはいけないよ」。「いいえ、カールはあなたの幻想の中に生きているんだわ。・・・

No. 194ネット小説マルクス

..私の夫はあなたの眼差しの中でカール・マルクスを演じているのよ。神の視野のごとく民衆を見るカール・マルクスの伝説。でも、本当は、鏡にもたれかかったバーメイドみたいにお客に見られている様な頼りない存在なのよ」

 

No.202小説マルクス

「ジェニー、よくお聞き。ここはイギリスだ。ジャーナリズムの国だ。沈黙してはならない。イギリス人を説得するためには、僕たちは絶えず言論に訴えなければならないんだ。思想と言論のマーケットで、カール・マルクスを流通させなければならない」。

「素晴らしいわ」。

「僕たちの共著「資本論」がベストセラーになる。一ヶ月、いや、三ヶ月、半年と、ロンドン中の本屋の店頭を飾るんだよ」。「本当に素晴らしいことだわ」。「そうだ。ロンドンだけじゃない。パリやベルリン、ニューヨーク、北京、東京と、世界中の都市でベストセラーになる日がやってくる。「資本論」は「聖書」を凌ぐんだ。翻訳の重要な意義が分かってきただろう」。

「ええ、ええ、素晴らしいわ。エンゲルス著の「資本論」がベストセラーになるのだから。ジェニーはあなたのためなら、どんなことでもするわ。あなたのためなら何でも捧げたいと思っているのよ。愛しているわ、フレデリック。あなたがカール・マルクスという本の作者だったことを世界中の人達に告げるべきよ」。

エンゲルスは黙った。それからさとした。 「秘密のラブレターのつもりかい。おふざけはここまでだ。マルクスエンゲルス共著の「資本論」と言いたまえ」。

「いいえ、ジェニーとエンゲルス共著の「資本論」よ」。

「いい加減にしたまえ。僕の言葉はカール・マルクスが語る言葉をありのままに聞いている。ところが、ジェニー、君の言葉は何を聞き取っているんだ。理性の耳を塞いで、唇と歯が好き勝手に暴れているじゃないか」。

「唇と歯ですって、私のいたずら坊や」。

「そうだ。唇と歯だ。時にはカールの言葉を愛撫したり、時には噛み千切っている。勝手な事を原稿の中に書くのはやめたまえ。以前はペルシャ語の様なおもちゃの文字だったからその場で削除してしまうことができた。しかし今は、一見カールの言葉を清書した普通の文字で、君の解釈が尤もらしく書き込まれている。字体からでは、時々カールのものか、君のものか見分けがつかないときがある。恐ろしいことだ。君の言葉と一緒に夢想家の亡霊が、僕とカールの「資本論」のなかを徘徊している。いや、失礼、カールと僕の「資本論」というべきだった。カールと僕は、君たちがでっち上げる解釈に抗議するよ」。ジェニーはくびをふった。。

「そうじゃない。そうじゃない。そうじゃない... ゲルツェンもバクーニンプルードンも一切関係がないの。私が書き綴った文字に、カール・マルクスが自分の解釈を書き込んでいるのよ。私の文字が搾取されているのよ。私を愛しているといつも言っているくせに、どうして、どうして、わかってくださらないのかしら!?」

「結局、君は、ヘレンと全く同じ類の女だ。空想の重力が事実を支配し、そこで真実が曲げられてしまう。奇妙だ。君もヘレンも、女性達は、解釈を創り出す欲望にとりつかれている。ここは狂気の部屋だ。僕には君たちの欲望が全く理解できない」と、エンゲルスは言った。

 

 

No.203 ネット小説マルクス(最終回)

マルクスが部屋に入ってきた。「フレデリック、いつも有難う」。「原稿の前払いと思ってくれるとこちらも気が楽なんだ。ところであの原稿は完成したかい」。

「いや、まだだ」。

「ロンドン本部の事務局が早く演説原稿を送って欲しいと催促を始めたから今日中に書き上げてしまおう。階級闘争における「抑圧する国家」と「抑圧される国家」という、ここのところ僕たちが議論を続けている、例の考えを発表するいい機会じゃないか」。と、ジェニーは窓を開けた。「"抑圧する男たち"と"抑圧される女たち"。"搾取する男たち"と"搾取される女たち」

マルクスはジェニーの言葉を無視した。エンゲルに意向を伝えた。「わかったよ。そうしよう。今日中にアイルランドの呪いに片をつけてしまおう」。

「さあ、ジェニー、本部宛に手紙を書くので、手伝ってくれたまえ」と、エンゲルスは頼んだ。
ジェニーはなにも言わずに机に座り、便せんを引き出しから取り出し、用意してペンを取る。ベッドから提案するマルクスの声に耳を傾ける。マルクスは一語一語言葉を選んでゆっくりと話し始める。しかし。ジェニーはいつものように空想を始めたようである。ドクター・フロイトの無言の指示・・・?

マルクスは皆に告げた。「これが終わったらお茶の時間にするよ、昨日ハムステッドの八百屋で買ったイチゴを食べようじゃないか。好物のクッキーも買っておいた」。

汚れたしわくちゃのシーツの上で神聖な儀式言葉を紡ぐ男の姿が山の頂においてモーゼに告げて語る神の姿を連想させる体毛がところどころ密集する、リズムの単調なマルクスの肌の感触が蘇ってくる。と、再び灰色の不快なまでの単調さがジェニーを襲い始めた。下山するモーゼは彼の留守の間に異教の神を崇拝していた民の姿に激怒し、神聖な言葉を刻んだ石版を叩き割ってしまったという。

ロンドンにおいて影響力を失ってしまったカールやフレデリックの言葉はどうなるのだろうかと想像している。ジェニーはマルクスの咳払いをきく。ペンをしっかりと持ち直し、気持ちを作業に集中させる。ジェニーの頭の中で言葉がぐるぐると巡る。深い溜息をついて、静かにペンを置く。

と、ジェニーは呟き始めた。「確信できない。わたしもカールも、なにも確信していない。ロンドンの暗闇の中に迷い込んだ私たちにはなにもみえてこない。なにひとつ確信できない」。

泣いているのは誰だろう。僕か、フレデリックか。泣いているのはジェニー。ーー故郷ボンから遠く離れて・
ロンドンで生きた 直ぐに慣れた・
人々の身振りと眼差しに暗闇と煙とに・
アルコールの中でゆっくりと刻まれる・
どれもこれも類似した思い出の数々にも・暮らしぶりや、習慣の違いも
不思議に思わなくなった
共通のものを感じた時の喜びが勝った・
パブに隣接した赤い公衆電話ボックスから・
地下深くチューブの中に生き埋めとなった・
労働者たちの・  
棺に向かって・
電話線が敷かれて・
こっそりと・

皆がひそひそ声で話し合っているとしても・お気に入りのアルファベットの図解辞典・
最初の頁にはワニAlligatorが・
二本足で立っている・
子供の時の友達、ベルリンの思い出・
道端のあちらこちらに落書きした・子供なのでまだ映画館に連れて行ってもらず 独りで・

近所の林(ジャングル)の中をうろついた悔しくて置き去りにした友達の家々の壁に・
特大のでっかい奴を描いたりした・ソーホーにあった映画館・
ワニ狩りの記録映画が上映された・
観客の貧しい労働者は・
単調で季節の変化に乏しいこの国にあって・
アフリカの太陽と熱帯の・

スペクタクルの映画を欲した・
スクリーンには泥沼から、板をガブリと噛んでいる・
      
グッタリとした動物の死体が・
引き抜かれるコックみたいに現れただけ・
固定ショットが捉える・
なんとも退屈な作業・
ボートの方に引きつけてロープを巻き上げていく漁師・

横には付き添いの麦藁帽子の女の子の姿がみえるー
Birdsong for one plus twoーI like this title. I read it again!ーBirdsong for two plus one

We are rock of the pastー
Rock-Repression-Regressionー
Let the past pieces where they mayー
And remember the futureー

With the unending birdsong.

と、なにかが落ちた

Good-bye・・・緑の・・・ワニ・・・

雨の恩寵を浴びながら裸足で歩き続けた。雲の隙間から陽光がこぼれ落ちても、その明るさに気づかなかったであろう。地面の若葉が輝いても

男たちと女には
自分達の掌の骨しかみえなかった・・・。
墓標に接吻すると、雨粒のせいで血が少しだけ滲んだ。

不安もないし、怖くもなかった。けれども、救いを告げるあのお節介な鐘の音に
邪魔されるのはとても不愉快であった。

暗闇の中の自身の声、千人の声と声とが重なり合ったざわめきのうちに明確な輪郭を失って流れて行ってしまった声。
耳を塞いでその自身の声を聞け。
耳を塞いで自身の声に触れよ。
耳を塞いでその自身の声を聞け。
耳を塞いで自身の声に触れよ。 

(了)