「映画史」のゴダールと「想像の共同体」のアンダーソン

 

 

「想像の共同体」のアンダーソンは、もはや19世紀的な国家の実体は存在しないという。現代はNHKの7時のニュースをいかに解釈するかという読みに日本国家が存在すると彼はいうのだ。これは大切な認識だ。戦争法の「テロリスト」はグローバル資本主義に関係する動乱を報じるニュースの解釈のなかにしか存在しないかもしれないからだ。BBCが「テロ」という言葉を使用することに警戒した所以である。さて下は映画とテレビの関係を考察した「映画史」からの一頁である。政治的に独立した新興独立国モザンビークのテレビ放送の取り組みについてゴダールが言及した所は、(私の)力不足ゆえに大切なことをいまだに書き切れていないが、アイルランド映画史を考えるヒントを与えてくれた。ポイントは、モザンビークという共同体がどこに存在するのかという問題である。モザンビークエスタブリッシュメントロシア革命と中国革命に影響されているとゴダールが指摘している。ここから彼が何を言おうとしているのかいつものようにはっきりとわからない。ここでは、ハリウッド映画とインド映画がいかにロシア革命と中国革命を解釈しているかという解釈の中にしかアフリカの一国家が存在しないと彼が言っていると私は理解する。これに関して、アイルランドのメディア研究の興味深い分析をひとつ紹介しよう。かつて、超ナショナリストのシンフェイン(IRAを指導する政治機関)が選挙に乗り出したとき、かれらがいかに、ハリウッド映画の描いてきたアイルランドのステレオタイプを利用して選挙戦を巧みに展開したのかということが考察されている。独立当時の演劇と文学の知識人達は神話的な「祖母」を描いた。だが一般のアイルランド人は祖母という存在に特別の思い入れがあるわけではない。しかしシンフェイン党は「敵からわれわれの祖母をまもれ!」と大々的に宣伝した。このとき、投票した人々は大きな危機感をもって、ハリウッド映画の描いた「祖母」のアイルランドに一票を投じることになったのである。