アイルランドの人権活動家のデビッド・ノリスDavid Norris について

文学というのは、一番抑圧されたものを、主人公として設定してきました。これは、ジョイスが「ユリシーズ」で、アイルランドで生まれたユダヤ系の人物を主人公にした最大の理由であります。現在ジョイスが書いたら主人公は間違いなくパレスチナ人だと新聞で看破したのは、このひと、デビッド・ノリスDavid Norrisでした。今回の同性婚の合法化の立役者の一人です。ダブリンは他のどの都市に比してゲイが多いにもかかわらず最もゲイの権利が無いといわれてきました。例えばまだアイルランドには19世紀の大英帝国時代の死文化したとはいえ、かのオスカー・ワイルドを監獄に放り込んだ刑法の条項が残っていたときに、ノリスがEUの最高裁に提訴しこれを取り除く判決を得たのでした。これほど差別が厳しい国でそんなに頑張れるのはなぜなのですか?という聴衆の質問に、ノリスは、「だからこそアイルランドでの人権の運動が比類なく尊いのですよ」と答えました。この言葉に大きな感銘を受けました。人気の高い上院議員であり、元々はトリ二ティーカレッジのジョイス研究者。一般向けの下の入門書は彼による執筆です。この中でも、もしジョイスの本が分からなくなったら声をあげて読めと彼は勧めています。これは、本を読むとは黙読することと等値しているテクスト派?の日本人は戸惑うアドバイスかもしれません。が、<ふつうの人々>のダブリン・アクセントでならばスラスラ読めることの意味を考えなさい、と彼は言うのです。実際にそうして読める本なのかわかりませんけれど、なにであれ、アイリッシュのアーチストほど、排除されてきた<ふつうの人々>への大きな共感を持とうとする者たちはいません。テクストの言説がそれを言う主体に触発する多義的な意味から再び始まるというか。声のノリスに動かされる人々は本当に多いのです