『フィネガンズ・ウェイク』

オスカー・ワイルドはいう。アイルランド人は自分自身について完全なものを書く必要があると。帝国オリエンタリズムが表象する“アイルランド人”が不完全であることを示してこそ自立できるからだ。そうしてワイルドの精神を継承したジョイスは宇宙を構成する密度を以ってダブリンの一日を書く。それを書くために<自分で決めた亡命>を行ったのである。その本は『ユリシーズ』と名づけられた。‪後に続く『フィネガンズ・ウェイク』は、『ユリシーズ』が<昼の本>であるかぎり、<夜の本>でなければならなかった。迷路ともいわれる。だけれど<夜の本>の裏側にわれわれが正面から見ている<昼の本>があるのだから、表というべきかもしれない。亡命者の視野から隠れるものは存在しないのである。